上橋菜穂子

裏MotorsportsFlashback。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 吉祥寺に、ヲタもとい、様々な趣味を持っていて、それら趣味の一つ一つについての掘り下げかたが素晴らしい友人がいまして・・・彼女のblogで、長期に亘ってRECOMMENDにされている本があって、随分前から気にはなっていました。
 彼女の趣味・嗜好については感覚としてある程度分かっているつもりだったので、この種の本で彼女が推すんだからおそらくハズレではあるまい、と思い、先日、広島の紀伊国屋に行った際、この本を購入。『I 闘蛇編』と『II 王獣編』の二巻構成で、まぁとりあえず『I 闘蛇編』を購入。ハードカバーだし分厚いし重いし高いし、もしおもしろくなければ『I 闘蛇編』だけで読みやめようそうしよう、という感じで、買った本を持って、紀伊国屋から程近い鯉城通りの放送会館内にあるスタバに入り、おもむろに読み始めました。

 ややっ、ページをめくる手が止まらない。

 戦争の道具として公的費用で飼育されている「闘蛇」という生物(龍のイメージに近い)。その日常の世話を任されている部族の一員と、異民族の女性との間に生まれた少女エリンを主人公として話は進められるんですが・・・  いわゆる「ハイ・ファンタジー」と言われる種類の読み物です。作家の上橋さんの代表作は「守り人・旅人シリーズ」。まだ読んだことはないんですが、一般にはこれはファンタジーというより児童文学の傑作シリーズとして知られており、同じく国産ファンタジーの金字塔「十二国記」と同様、NHKの衛星アニメ劇場枠でアニメ化され、現在も放送中。その「守り人・旅人」シリーズの小説が完結したあとの、作者の長編新作が、この『獣の奏者』です。
 と書くと、「剣と魔法と王家が出てくる」従来型のファンタジー小説を想像するところですが、随分違います。
 主人公エリンは魔法使いでもなければ女剣士でもありません。というか魔法は出てきません(王家は出てきますが)。
 主人公エリンの母(闘蛇の医術師)、そして、とある悲劇で母を失った後にエリンの「育ての親」となったジョウン(ある理由でリタイヤしている教育家であり、現在は養蜂家)、さらに、その後にエリンが寄宿する全寮制の学校(傷ついた王獣を保護することを通して「獣の医術師」になるための勉強をする、いわば獣医さんの養成学校)。  エリンの成長過程でエリンを取り巻くこれらの人々・環境から受ける影響が、エリンを、普通の子よりも洞察力・観察力・探求力に優れた子に育てます。そしてそれらの力を駆使し、目の前の困難に対し最善と思われる方法を実行する意志の強さ。時にはそれに反対する人々(それが恩師や、その国の絶対権力者であっても)に対して、強行突破するのではなく、自分の目的と理由をはっきり提示し、相手を説得し得る交渉力。
 『魔法』や『剣術』にかわって、物語を進める上でエリンの武器となるのは、これらの力です。

 上巻にあたる『I 闘蛇編』、スタバで一気に読み終わったのはいいものの、続きが読みたい。今すぐ読みたい。待てない。ていうか『I』と『II』のつなぎの部分というか渡りの部分があまりにも絶妙かつ巧妙。これもしも買って家に帰って夜になってゆっくり読んでいたら、『I』を読み終えてすぐに『II』が読めないことで、心身に過度のストレスを感じ、そのまま悶え死んでしまいかねなかったであろうと思うと、買って家に帰る前に読み始めたのは正解だったと思いましたね。
 という訳で気がつくと先ほどの紀伊国屋書店に逆戻り。そのまま『II 王獣編』を購入し、今度は別のカフェに転がり込み、オーダーした飲み物に口をつけるのももどかしく、読み進める。

 主人公エリンは、様々な理由から、奇しくも母と同じく「獣の医術」について学ぶことになるものの、そんな中で、傷ついた一匹の王獣の世話を任されたこと、そしてエリンの持ち前の洞察力・観察力・探究心と、純粋に王獣を思いやる心根の優しさ、それらの全てが組み合わさったとき、エリンは否応なく、高度に政治的な激流の中に巻き込まれることになります。
 読み進めるうちに、エリンが善しと思って進めることが、必ずしも彼女の世界にとっての善である、とは限らないのではないか、という状況が展開していくにつれ、読み進めるのが苦しく、悲しくなってきます。とはいっても、物語の構成力の高さ、そしてストーリー展開の見事さ、個々の登場人物の造形の見事さ、など、良い小説の要件の多くを兼ね備えているだけに、読み止める事ができません。悲しくて、つらくて、もうやりきれない。でもページを繰る手は止められないという。

 これ以上詳しく書くとネタばれになってしまうので書きません。てか、これは本当に良い小説なので、どうかファンタジーだの児童文学だのという部分でしり込みしてしまう人たちも、騙されたと思って読んでください。
 この作品の極めて優れている点は、ハイ・ファンタジーでありながら、エリンの悩みや苦しみは、そのまま現代社会にもありがちなものであるという点。高度に政治的で難しいところまでテーマを持って行きながらも、語り口は平易で子供から大人まで楽しめる。子供も大人も、それぞれの年代が今までの人生経験の中で得たものを投影しつつ、世代ごとの楽しみかたが出来る本です。
 子供だけに独占させておくのは、もったいない。

関連記事
スポンサーサイト

タグ : 上橋菜穂子 獣の奏者

 Copyright © MotorsportsFlashback 弐 All rights reserved. 

 / Template by 無料ブログ テンプレート カスタマイズ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。