ダナエ

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 このblog、「今日の一冊(一枚・一曲)」っていうカテゴリーを作ったはいいけれど、実質的にはいままで全部「今日の一枚」ばっかりでした。
 本は全然読んでないのかというと、そういうことではないんだけど、なにしろ大阪や東京では電車通勤だったのが、広島に来てからは自転車通勤になったんで、量は激減しました。一方で読みたい本は多くて、どうにも追いつかない。
 自動車レースのシーズンに入ったのでレースは見に行きたいし、レースとは関係なく読みたい本は沢山。見たい映画も沢山。聴きたい音楽も沢山。やりたいゲームも沢山。撮りためて現像していないRAWデータも沢山 orz ああ時間が欲しい。

 ってそんなことはどうでもよくて。

 ここ数年で一番気に入っている作家は誰か、っていうと、やっぱり藤原伊織ってことになるのかな。
 別に洋の東西を問わず読んでいるつもりでも、映画もそうなんですがやっぱり母国語で理解できるものがいいので、海外作家とか洋画とかは「一番」という話になると出てこない。この人の、乱歩賞と直木賞をダブル受賞した『テロリストのパラソル』なんてのは個人的にはオレサマ史上ベスト小説を争そいますね。

 で、『ダナエ』ですが。
 中篇の「ダナエ」、そして短編の「まぼろしの虹」「水母」の二編、計三篇が収録されたものですが、全体としても薄く、中・短編集と言ってもいいでしょう。
 本の装丁は立派なハードカバーですが、中編一つに短編二つという構成といい、行間にわりと余裕をもたせた写植といい、読みはじめると一気に各エピソードの末尾までを読み切ってしまいたくなる、佳作短編集です。
 いずれも、藤原伊織の作品に出てくる類型的な男性、ちょっとアウトローで、ちょっと過去に暗い影を持ち、そしてちょっとハードボイルド風味なセリフを喋る男が出てきます。「ダナエ」と「水母」では、そのハードボイルド風味の男性が主人公、そして「まぼろしの虹」でも準主役として重要な役割を占めています。ただ、乱歩賞作家の書いたミステリー小説だと思って読むと、どのエピソードもちょっと肩透かしを食らいます。

 ミステリーとしての体裁をとっているのは表題作「ダナエ」だけ。ちなみに「ダナエ」とはギリシャ神話に出てくる女性で、レンブラントの作品に、そのダナエをテーマにした絵があり、過去、エルミタージュ美術館に展示されていた、そのレンブラントの「ダナエ」が何者かにより、硫酸で損壊させられるというエピソードが過去にあって、それと酷似した事件が銀座の画廊で起こる、という話。誰が、なぜ?そして「ダナエ」事件との関連性は?というあたりが謎めいているものの、所謂「本格ミステリー」としての約束事は守られていません。それよりも、主人公が過去に抱えている事件、それによる心の傷、という部分の方が、お話の根幹を占めています。

 「まぼろしの虹」は、藤原作品の主人公としてはかなり健全な精神状態の男性が出てきて、その姉との物語か、と思わせるような始まり方をしますが、その後「藤原伊織的な」男性キャラがサブで出てきます。その男性キャラが抱えている背景というかドラマだけで小説が一つ書けそうな感じなんですが、短編であり、そういうことにはなりません。そのあたりが、この作家の長編作品(とりわけ『テロリストのパラソル』『シリウスの道』)が好きな人にとっては物足らないかも。この話を長編で読みたかったな、と。俺もちょっとそう感じただけに。
 そのサブキャラの家で主人公とサブキャラが一緒に食べる、土鍋で作るおでんの美味しそうな描写が実に印象的です。

 最後の収録作品は「水母」。
 主人公は過去に売れっ子だったこともあり、多分いまでも才能は枯れていないにも関らず、競輪と酒にうつつを抜かすCMディレクター。これまた典型的な藤原伊織キャラの主人公です。
 この主人公と過去に同棲していた女性(クリエイターからアートの分野で名を成し、今では大学で教鞭を取るまでになっている)がいて、その女性が、複雑な状況が絡み合った結果、大きな危機に直面。過去に同棲していた女性の危機に対し、駄目男に成り下がった主人公がとった行動は・・・という話。
 短編であるにも関らず、主人公の抱える問題、過去の出来事などもうまく描き切ってあり、俺個人としては、今回収録三作品の中では最高におもしろい。「まぼろしの虹」とは異なり、短編ならではのものがたりを、短編ならではの技法で書かれているのがいいんです。

 各エピソードとも、結末はハッピーエンドと言えるかどうか微妙だけど、主人公達のその先に続く道は決して暗澹としたものではない、という感じなだけに、読後はちょっとだけ気持ちよくなれました。それでありながら、四十前の男が読むと、結構どのエピソードもずっしり響く部分もあったりして(このずっしりした部分は、多分俺が20代だったら分からなかったかもしれないなあ)。

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タグ : ダナエ 藤原伊織

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